うおおアンサンブル

三国志11PK動画「呂玲綺で英雄集結いってみよう」別館

鄒氏

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「おさびしいか。おお、秘園の孤禽は、さびしさびしと啼くか」

――吉川英治三国志」より




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特技:楽奏

毎ターン気力が5回復



歴史の狭間に沈んだ女性

三国時代の女性は、意外と逞しい人物が複数います。

たとえば自ら鎧に身を包み戦った王異。
夫である司馬懿を何度も圧倒した張春華
女遊びの末に子を死なせた夫(某乱世の姦雄)に憤慨し、実家に返された後その夫がわざわざやってきて頭を下げて平謝りしても決して許さないという姿勢を貫き通した丁夫人。
賈充の妻で、賈充が晋の武帝である司馬炎の許しを得て正室を2人持とうとしたところ「律令を定め刊し、命の功を佐けるを為す、我に其の分有り」――すなわち「あんたがここまで来られたのはわたしのおかげでもあるのよ」とどやしつけてやめさせた郭氏。

創作に目を向けても、劉備の母や糜夫人、祝融、孫夫人(孫尚香)……などなど、芯の通った女性はかなり沢山います。貂蝉も、連環の計を成らせるにあたって見せる覚悟たるやまことに峻烈です。

比較して彼女は、いかにも弱々しい印象を受けます。「あなたのために、特別に張繍の降伏を認めたのだぞ……?」みたいな口説き文句に押され曹操にかしずいてしまう様は、甄氏と並んで「乱世に翻弄される女性」のステロタイプのようでもあります。
いえ、「並んで」という表現は不適切ですね。甄氏はまだその数奇な運命を結末までフォローされていますが、彼女については事件の後どうなったのかさえ分かりません。歴史書も物語も彼女の命運については語らないのです(ゲームにおいては没年が197年であるため、コーエーとしては襲撃時に命を落としたという風に設定しているようです)。

いやはやひどい扱いと言うべきでしょう。吉川英治三国志でも、曹操は「予を淫らだと思うか?」とか熱く口説きながら、鄒氏が泣いてばかりいると短気を起こして「おいっ、返辞をせんかっ」とか怒鳴りつける始末ですし。女性の描写についてはあまり紙幅を割かない吉川三国志ならではとも言えますが、しかしあんまりです。

一方。三国志11においては、そんな彼女のキャラクター性を損なうことなく舞台が与えられています。基本のステータスに加え、特技や相性・婚姻関係など様々な要素を登場人物に与えることで、多面的な活躍を実現する11ならではといった感じですね。

没年の設定などと併せて見ても、ある意味鄒氏という登場人物を一番丁寧に扱っているのはこのゲームなのかもしれません。無双に出てきたら逆転するかもしれませんが。むずかしいかな。どうかな。

鄒氏と楽器と顔グラと

さて。彼女が活躍できるのは主に、楽奏というスキルによるところが大きいと言えます。その能力を踏まえてか、彼女の顔グラにも楽器が描かれています。

二胡のようにも見えますが、これはおそらく吉川三国志において「胡弓」(これは本来日本独自の楽器で別物ですが、よく二胡と混同されるそうです)を弾いている場面がありますので、そこに由来しているのでしょう。
歴史書は勿論演義にも彼女が楽器を弾いている場面はなく、完全に吉川三国志オンリーの設定です。個人的には素晴らしいアレンジと思いますが。すごく絵になりますよね。

ただ若干問題があって、実際のところ二胡(胡弓)が登場するのはどうも唐代くらいまで下がるようなんです。時代考証としては厳しいものがあります。あとギターでいうところのヘッドの部分が三味線に似ていて、しかもペグ(弦を巻く部品)的なものが五つもあります。五弦なのかこれ。いやスティーヴ・ディジョルジオとかマックス・カヴァレラみたいに何本かしか弦を張ってないという可能性もありますが……。

そのことについて突っ込みがあったのかどうかは分かりませんが、12では琵琶に切り替わったようです。琵琶については、後漢書物*1にその存在が語られているそうなので、彼女が持っていても特に問題はないと思われます。

もしそうであるとすれば、顔グラに対して大変細やかな気配りがなされていることになります。すごい。



この12から全身グラになりましたね。初めて見た時は衝撃でした。

*1:劉煕著「釈名」。いわゆる辞典です